こえ・Echo

安邨尚美が開催する勉強会・演奏会のご案内ページ

この一年。

本格的にコロナ問題とともに生活するようになってから1年。昨年の2月は、クルーズ船での感染や国内での感染報告が出始め、緊張感/不安感が高まりつつも、何とかレッスンやリハーサルを中心とした生活は続けられていました。また、暖かくて梅が早くから咲き誇っていたことを、今そこかしこで見かける美しい梅の花を見かけて少し懐かしく思い出します。

私は、それまで月一回のレッスンや指導をたくさんしていましたが、昨年2月はまだみなさんにお会いできていました。しかし、その時を最後に1年間全くお会いできていない方もたくさんいらっしゃいます。まず単純に、お顔を見られずお話も出来ないことはとても寂しいです。そして、地道な学びの継続が必要な声やアンサンブルの技術について考えると、この中断が非常に残念でなりません。さらに言えば、この1年歌から離れてしまっている方もいらっしゃるのではないかと、とても心配しています。

特に都市部でアパート暮らしなどをされている方たちにとって、自宅で歌を自由に歌ったり、声のトレーニングを行うことは難しいことも多いのではないでしょうか。カラオケボックスなどで練習しようにも、緊急事態宣言下では施設が全て閉まっていましたし、その後も声を出す活動については風当たりが厳しい状況が続いています。そんな中で歌おう!という気持ちが萎えてしまったり、歌いたい!という気持ちを忘れてしまったりしている人もおられるのではないかと思います。またアマチュアの方たちの中には、みんなと一緒だから歌いたい/歌えるのだという人もいらっしゃるでしょう。このような状況の中で、そういう方たちのために、私が出来ることがあるのだろうか?どのように寄り添えるのか、ずっと考え続けてきた1年でした。また、そのような現実の中で、自分自身の生活もどのように続けていくのか模索し続けた1年でもありました。

私はこれまで、アマチュアであっても、自分から積極的に上手くなりたいと思う人たち、アンサンブルの更なる向上を目指すために努力を続ける人たちの手助けになりたいと願ってきましたし、そのためには各自で努力をしなければ、そしてアンサンブルは全員が揃わなければ始まらないと考えてきました。いうまでもなく、日々自分で声を出してトレーニングを積み、歌い、練習することが大前提です。でも、このコロナ禍ではその考えを保留せざるを得ませんでした。どんなに願っても周囲の環境や置かれている立場によっては、声を出すことも、集まることも困難な状況がある中、その方たちを否定したり排除することは到底できないからです。では、そんな中で私に出来ることは何なのかー。状況が長引くなかで正直途方に暮れてしまいましたし、実際今でも途方に暮れている自分はいます。

しかし、日本や東アジアは欧米などと比べると感染者数がかなり少なく、夏頃には比較的状況が落ち着いて、施設等が少しずつ再開されたため、とにかく環境はどうあれ"歌える場”を提供し、継続することが今は私に出来ることだと信じて、何とか出来る限り集まれる場を探し、みなさんに歌い学べる機会を作ってきました。自分を大切に、そして同じように他人も大切に思い、考え、その中で自分の信じる道を作りながら進んでいくしかないと、とにかく日々を過ごしてきました。冬に向けて再び感染者数が増えて緊張感が高まりつつある中ではありましたが、対策を講じた上で、コンサートを開催し、また、細々と継続していた会のおさらい会的なものも開く事が出来て、こんな中でも、そして小さな事だけれども、前進し成し遂げられた事もあったと感じられ、また制約のある中100パーセントではないけれどアンサンブルの響きの空間を共有できたのは、私としては本当に嬉しいことでした。その場に居られたことを喜ぶと同時に、会えなかった、来られなかった、その場に居られなかった人たちにも、何かこの1年1人1人にとって前向きでいられるものがあった事を願わずにはいられませんでした。

2021年の始まりは、残念ながらまた緊張感に包まれたものとなってしまいましたが、それでも、昨年の経験と知識の積み重ねやワクチンなど新たな可能性を得て、何とか乗り越えて行く道を探りながら、みなさん全員とお会いし新しい一歩をまた踏み出せる日が来るよう祈り続けています。とにかく各自が出来ることを出来る範囲でこなしつつ、明るい春と、暑すぎない夏を願いつつー。マスク無しで歌い、気兼ねなく指導できる日が一日でも早くやってきますように。

安邨 尚美